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INTERVIEW

家と人とこのマチと

インタビューアー / 株式会社南畑ぼうぶら会議 衛藤志穂

[お惣菜とおやつ「アオイハナ」店主] 志水真理恵さん

約3年前に古民家をリノベーションして移住後、夫婦とふたりのお子さん4人で南畑の暮らしを楽しんでいらっしゃる志水さんご家族。奥さまの真理恵さんは、農家さんの未利用野菜(形状やキズなどがあってスーパー等に卸せない野菜等)や自宅で取れる柑橘類をうまく活用して惣菜やおやつを作る「アオイハナ」を開業。最近では地域活動にも積極的に取り組み、南畑地域活性化協議会にも参加中。

黄色の壁紙に志水さんの笑顔が映える。
『良かったらどうぞ〜』

カランカロンと氷の音を響かせながら運ばれてきたのは、志水さんお手製の梨とジンジャーの炭酸ジュース。ほんのり甘くて後味さっぱり。なんだかとても懐かしい。

南畑に移住して3年、少しずつ自分らしく、丁寧に日々の生活を送り始めることができたという志水さんのお話は、どれも等身大で、南畑に移住をご希望の皆さんはぜひ聞いて欲しい素敵なお話をたくさん聞かせていただくことが出来ました。

− 志水さんご家族が南畑に移住して来られて3年が過ぎました。もう随分前のことのように感じますね。まずは最初に南畑に移住をしようと思ったきっかけを教えてください。

移住と言うか、きっかけはもう7年前ぐらいですかね。上の子が小学校に上がるタイミングでした。福岡市内で2LDKの賃貸マンションを借りていたんですが、LDKが8畳くらいしかなくてとても狭かったんですよ。加えて使いにくい間取りだったこともあって、学習机が置ける広いところに引っ越したい!という思いが強くなっていたのが最初でした。更に我が家は猫を飼っているので『ペット可』の物件じゃないといけない・・と、広さとペット、両方クリア出来る家ってなかなかなくて、見つけるのもかなり苦戦するんです。

(ほんのりピンク色の梨とジンジャーの炭酸ジュース)

(志水さん家には3匹の猫ちゃんが住んでいます)

それで、その時はまだ具体的にどこに引っ越したいとかも定まってなかったんですよ。そんな時に、夫がスミツケの空き家バンクで気になる空き家物件を見つけてきて。物件も広くていいなと思って内見もして申込のエントリーをしたんですが、残念ながらその時は他の方に決まってしまったんですよね。

その後、結局は那珂川市内のマンションに引っ越してきたんです。それから3年ほど経った頃に何となくまたぼんやり将来のことを考える時期があって、夫は長男、私は3番目の長女で、ゆくゆくは熊本にいる両親に何かあった時に駆けつけられるように両親の家の近くに住むことを考えていたので、次はもし移動するなら熊本かなぁなんて思っていたんですけど。また、ちょうどその頃にこの家がスミツケの空き家バンクに掲載されているのをたまたま見つけて・・。

正直に言うと、夫にも「ちょっと冷やかし程度に行ってみよっか」って言って物件を見に行ったんですね。そしたら、窓から本当に気持良く南畑の風景を見渡せる家で、さらに広さを求めていた私たちにとっては絶好の物件だったんです。夫も私も、もし家を買うとしたら新築というよりは古民家をリフォームして住みたいとずっと思っていたので、そういう意味でもこの物件の雰囲気も本当に魅力的でした。

そして、今回は無事にお話も進めることができてこの家を購入することができました。あの時は、融資の審査が通るかな〜とか、もうほんとドキドキしながら待っていたのを覚えていますね。

これは余談になるんですが、実は我が家がこの家を購入するのと同じタイミングで夫の弟も新築を建てたんです。もちろん設備も最新できれいな家ですから、夫の両親にも私の両親にもそれはもう義弟の家と比べられて比べられて(笑)、本当にそんな古い家を買って大丈夫なのか!と大反対されました。最終的には、「あんたたちらしくていいんじゃない」って言ってもらえたんですけど、やっぱり田舎なので子どもたちの通学のことや家の周りが暗いとか、親はいろんな心配をしてましたね。


(アンティークなランプがアクセント)

(志水さんの言葉はどれも等身大で、なんだかすぅーっと心に入ってくるんです)

− そうだったんですね。でも確かに私も薄っすら覚えていますけど、当時のこの家には大量の残置物がそのままあって、畳はボコボコになっていたり、壁も傷んでいたり、庭も鬱蒼(うっそう)としていたり・・(笑)ご両親が反対する気持ちも分からなくはないです。空き家になってから随分時間が経っていたこともあって、正直なところ相当ハードな物件だったと思いますが、それでもここに住みたいと思った決め手は何だったんですか?

玄関までの道のりは生い茂った草を両手で掻き分けて行かないとたどり着けないし、いざ家の中に入ったら入ったで、それはもう・・大変でした(笑)壁に穴があいていて、そこから獣が出入りしている形跡もあって家の中も自由に歩いてる感じでしたし(笑)

でも、表面上は確かにハードだったんですが、よく家を見渡していると、昔ながらの廊下の装飾品とか、欄間とか、ガラスとかこの家だからこその素敵なものも溢れていて、だったら床は貼り直せばいいし、壁の穴だって塞げばいいし、手を加えたらこの家は絶対生まれ変わる!と確信したんです。

インターネットやSNSなんかで漆喰の塗り方や、リフォームの方法などを眺めるのが好きでよく見ていたから、ある程度の理想像はこの時すでに描けていたので、内見した時に「ここなら私たちがやりたいこと全部できる!」って思ったんですよね。実際に改装中は自分たちで壁を塗ったりもしました。

実際に驚くほど素敵に生まれ変わっていて本当にびっくりしました。もう前の状態が思い出せないです(笑)古くてもいいところは残しつつ、新しく変えるところはしっかり手を加える。志水さん家族の想いとセンスがたっぷり詰まった家になっていますよね。当時は窓の外を見る余裕さえなかったんですが、こうやって改めて見てみると窓から見える景色も最高ですね。


(雰囲気ある格子とガラスは元の内装を活かしたもの)


(志水さんのお宅から見える南畑の風景)

− では今度は南畑での暮らしについて聞かせてください。
もともと那珂川市内での暮らしを経由して南畑に移住されているので、生活スタイルがガラッと変わる感じではないとは思うんですけど、実際に住んでみられて以前と変わった部分はありますか?

娘が前の小学校でちょっと馴染めていない感覚があったんですけど、性格的にも南畑小学校の雰囲気がとても合っていたみたいで、それは本当に良かったですね。

3年生の終わりがけの中途半端なタイミングに転校してきましたし、南畑小学校は前の小学校よりももちろん児童数も随分と少なくてクラス替えとかもないから、同じメンバーでずっと上がっていくことになりますよね。なので、もし合わなかったらどうしようとかそれはそれで不安もあったんですけど、入ってすぐから目が生き生きと輝いていて毎日充実しているんだなと見て分かるほどでした。本当に親友と呼べる友達も作ることができたし、本人はもう毎日小学校が楽しくて仕方なかったみたいですね。

私も子どもが南畑小に通っているので、志水さんの娘さんもよく目にしていましたけど、すぐに溶け込んでいたし本当いつも楽しそうにしてるなって感じていました。しかも最後には応援団長にまでなって!

そうそう・・応援団長(笑)それもやっぱり小学校でいい友達に巡り会えたのが大きいんじゃないかと思います。

小学校のときは授業でも普段の生活でも地域との繋がりが深いじゃないですか。今、中学校に上がって、それがすごい減ってしまうところがあるので、地域との繋がりを保ったままこの地域の良さを実感しながら育っていって欲しいですね。

− 志水さんご自身はいかがですか?

私自身も、暮らしを心から楽しめるようになりました。ちょっとしたことですけど、今までだったら買わないと手に入らないものがご近所さんからお裾分けでもらったり、こちらもお返しをしたり。フレッシュな柑橘類が自分の庭にたくさんなっていたり。そういうこと1つ1つがとても新鮮で楽しくて。私の実家がそんな感じではあったんですよね。思い返すと親戚が山のように野菜をもってきてくれたりしていました。そういう光景を見て育ったこともあって、あぁ懐かしいなぁと思いながら暮らしています。我が家の庭には柚子やカリン、梅もなります。四季の移ろいを感じながら生活できることが、こんなにも心が豊かになるとは思っていませんでした。

そして声を大にして言いたいのが、とにかく南畑は“人”がいい。

今はご近所さんとの何気ないやりとりさえも幸せを感じていますよ。南畑は移住者と元々住んでいる方とか、若い人と年配の人とかの垣根がほんとに少ないので、世代を超えて交流できるんです。最初は田舎って閉鎖的なのかなと思っていたんですけど、ここでは自分が受け入れてもらえているのがちゃんと分かります。どこでもそうなのかなとも思ったけど、やっぱりちょっと離れた地域の話を聞くとそうでもなかったりするんですよね。この懐の大きさは南畑ならではの良さだと改めて感じています。

(玄関へと続くアプローチ。当時は生い茂る草で家が見えなかったんです笑)

− 移住された最初の1年は関わりがあると言えば小学校のことが多かったと思うんですけど、ここ1、2年は「あれ今日は志水さんはいないの?」となるくらい積極的に地域活動に参加されてますよね。南畑みらい協議会にも入られていますし、その辺りの変化はなにかあったんですか?

今の仕事(惣菜販売)を始める時に販売先を探していたんです。どういうルートでどうやって商品を売っていこうかと悩んでいた時に、ご近所さんに相談したら、ちょうど地域で移動販売の取り組みの話が出てるのよって教えてくれて。そこで販売できないか区長さんに相談してみようか!って言ってくださったんです。それでまずは移動販売の活動をしている協議体に参加させてもらいました。その流れで南畑みらい協議会の方にも顔を出すようになり、そこから地域の方との輪が一気に広がっていきました。

協議会ってみんな和気あいあいと話をするんですよ。自分が住んでいる地域がどういうところで、どういう人が住んでるのか、どういう取り組みをしてるのか、地域のことを知るには一番いい方法でした。それぞれ人で特色や考え方もあるけれど、やっぱり自分の住んでいる地域のことですから、みんな南畑をもっと良くしたいという同じ想いを根底に持っていて、その輪の中に自分も一緒にいれることがすごく心地良いんですよね。

− 実際に協議会に入ってみてどうですか?

とても話しやすいですね。意見が出しにくいと思うことは全然ないです。
だけど、もっと良くしたいよねとか、こういうのがあったらいいよねとか様々な意見が出ても、いざ実際に動こうとなるととても大変なのもわかってきました。

特に、今ではたくさん地域のイベントや行事があるので、夜の会議の回数も増えてくるし、人員はどうするのか、時間はどれくらいかかるのかとか、その他にも移動販売の仕入れがあったり、地域の行事など色々なお手伝いもあって、これ以上やることが増えても、手一杯なぐらいメンバーの負担が増えていて・・。

どうしても区長さんや民生委員さんなど決まった方に仕事が増えがちで、負担がすごく大きいんだろうなと思いながらも、でもそういった方たちの協力がないと回らないという現実もあって。どうにかしたい気持ちはあるけど、そのためにはどうしたらいいのかなと最近考えています。

私も数年前からその課題が常にあるような気がしていて、志水さんのような方たちが協議会に参加してくださるのは地域にとっても本当にありがたいことだと感じています。特に最近は移住者の方が積極的に地域に関わってくださる方がすごい多くて、私たちももっと南畑の良さを発信して仲間を増やしていけるように頑張ります!

(これが噂のお庭の柚子の木。)
− 先ほどお話にも出ていましたが、昨年始められたお惣菜屋さん『アオイハナ』のことを教えてください。移住当初から構想があったんですか?

それこそきっかけはさっきからよく話に出てきている、柚子なんですよ。家の裏庭に3本ぐらいあって、冬の時期にめちゃくちゃいっぱいに実がなるんです。こんなになってどうしようと思うくらい(笑)。でもせっかくなってるし、捨てるのも勿体無いし、とりあえず配れるところには配って、あとはポン酢を作ったり、あと柚子胡椒でしょ、これは地域の人にレシピを教えてもらったんですよ。それにシロップも作るでしょ。あと柚子のカードも作りました。

実そのものは傷もいっぱい入ってるし、棘(とげ)を取ってるわけでもないから見た目はとっても悪い。だけど、中身は全然変わらなくて美味しいものができるんです。それで農家さんたちが作っているものにも、綺麗で形が良くないとスーパーに卸せないとか、きっとそういうものがいっぱいあるんじゃないかなと思ったんです。それを活用して何かできたら楽しそうだなぁと思ったのが惣菜を作ろうと思ったきっかけです。

私のお惣菜は働くお母さんやなかなかお買い物に行けない年配の方にスポットを当ててはいるんです。実は自分が仕事をしていた時にご飯を作るのがすごくきつかった経験があって、ちっちゃい子を育てながらご飯を作るのって仕事をして帰ってきてからだとなおさらですよね・・。その時に。もう一品あれば助かるのになって思うことが多かったんです。それで同じようなご家庭ってきっと多いんじゃないかなと思ったので、家族全員分揃えたとしてもそんなに負担にならない金額でと思い「アオイハナ」を立ち上げました。


(お庭になった梅の実で作ったお酒)

− 今後の「アオイハナ」はどんな風にしていきたいですか?

加工品をできるだけ増やしていきたいですね。活動を通じて地域の農家さんとも少し繋がることができましたけど、できるだけもっと地元の方や農家さんとつながって、ジャムとかトマトソースとかを少しずつ増やしていければベストです。その日のうちに消費しないとあとは廃棄になってしまうものより、日持ちができてロスが少ない方法を考えていこうと思っています。

今年の夏に大分のトマト農家さんと知り合うことが出来たんです。今年って特別暑かったじゃないですか。いつもだったら大丈夫なトマトがこの暑さで熟れるのが早すぎて出荷してる間に割れてしまうと言う理由で店頭に並ばず戻されるものがたくさん出てきてしまったらしいんです。それで、勿体無いから配れるところには配って、自分たちも毎日のようにピューレを作って、それでも消費が追いつかず最後は廃棄するしかない。

それで状態が良くないからと言ってトマトをいただいたんですけど、本当にそのトマトが美味しくて食材として全然悪くないんですよ。一般的にはやっぱり綺麗な状態のものを買いたくなるけど、どういう土を使って、どういう肥料を使って、どういう管理の仕方をして作られたお野菜かどうかって、見た目じゃわからない。結局買う人は形でしか判断できないから、ちょっと見た目が悪いとやっぱり手を伸ばしづらくなるんですよね。消費者側もだし、出荷側も完璧を求めすぎてどんどんハードルを上げていってるような感じがしていて・・。野菜の価値をそれだけで判断しないような価値観が増えたら、廃棄の量はグッと減ると思うんですよね。少し傷が入っていてもそれは普通のことなんだよって多くの方が思える様にしていけたらいいなと思います。

博多駅に行った時に、催事コーナーでアップサイクル品を売ってるイベントがあったんです。「シロップを作った後の果物を使った」とか、「廃棄されるはずだったトマトを使った」とかどれも付加価値みたいなのが付けてあるんですよ。
実際に悪いところを取ったり選別しながらの作業だから、きれいなものを加工するより圧倒的に手間はかかる。手間はかかるんですけど、それをお金に乗せてしまうと結局意識が高い人向けの高価な商品になってしまうから、私の場合は、誰もが買いやすくて手に取りやすい商品として販売することが出来たらいいなと考えていて、もっと地域のお母さんとか高齢者の人とかの日々の生活を応援していきたいですね。


(傷がついていても中身は最高に美味しい)


(玄関のガラスが可愛い)

− 今日はたくさんのお話ありがとうございました。最後に今から南畑に移住してくる方に南畑での暮らしを楽しむコツを教えてください!

地域と積極的に関わることが一番だと思います。関わった方が100%楽しくなりますよ。移住した最初の頃は、この「家」が好きで暮らしていました。でも、積極的に地域の人たちと関わるようになって、今は「この家で、この地域でじゃないとダメ」って思うようになりました。

人と自然と家。これが全部揃ってここじゃなきゃダメという風になれば、もうここから離れる理由はないじゃないですか。そんな人がもっと増えてくれたら私も嬉しいですね。南畑はそれだけの魅力がある場所だと思いますから。あと、ちょっと不便さを受け入れるというか、実生活の現実としては都会の生活よりも不便な部分はあると思いますけど、でも、それさえも自然と好きにさせてくれるのが南畑だと、そんな気がしています。

それにスミツケの存在は本当に大きいと思います。やっぱり地域の営みの大切さを伝えてくれたり人を繋げてくれるから、地域活動に参加される移住者の方が多いと思いますし、暮らし始めた後もなんかあったら相談に乗ってくれるし、是非、地域に住みたいなと思ったら、みなさんもスミツケに行ってみて欲しいですね。

 

いつどこで会っても笑顔で手を振ってくれる志水さん。その穏やかな表情とピンと伸びた背筋から充実した生活がうかがえます。

環境と心の持ち様で日々の暮らしはいくらでも豊かになる。今回、志水さんにインタビューさせていただいたことで、自然とこちらまで幸せをお裾分けしていただいた様な気がします。そんな前向きな志水さんのことがますます大好きになってしまいました。

志水さんが活動されているお惣菜とおやつ「アオイハナ」は主にInstagramで情報発信をされていますので、そちらも是非ご覧になってみてください!

「アオイハナ」
Instagram:aoihana_0227
https://www.instagram.com/aoihana_0227/