19

INTERVIEW

南畑の森で見つけた、本当の豊かさ

インタビューアー / 南畑ぼうぶら会議 衞藤志穂

[造園業] 水崎孝行さん / 章子さん

南畑に移住してこられて約半年の水崎さんご夫妻。 お住まいは市ノ瀬地区の森の中、孝行さんは造園業を、章子さんはお花に携わるお仕事をされていることもあり、お二人にとって緑豊かで広大なこの敷地は理想的なんだとか。 ご自宅の中は、四季折々の草花で彩られ、五感が刺激されるような楽しげだけど落ち着きを感じる素敵な世界観が広がっています。

南畑に移住してきて約半年、自然と寄り添いながら野草や花、木の実など身の周りにあるたくさんの宝とともに穏やかで豊かな里山の生活をはじめられた水崎さんご夫婦と愛猫ののりたま嬢。
レモングラス、レモンバーム、レモンバーベナ、ローズマリー、章子さんが自宅の庭のハーブを摘んで淹れてくださったふわっと薫る爽やかな柑橘の香りと、温かくて優しい味の生ハーブティーをいただきながら、移住までの経緯や移住後の暮らしについてお話を伺いました。

(まるで森のような敷地内のお庭。たくさんの緑に包まれています。)

―移住して来られてから約半年ですが、すっかり南畑に馴染んでいるように感じます。ご主人は福岡市西区のご出身とのことですが南畑のことは昔からご存知でしたか?

<孝行さん>南畑といえば、二十歳ぐらいの頃、友人と車で「ナンパタ行こうぜ!」って九千部山の夜景を見にドライブに行っていた思い出があって、僕の時代だと若い頃は週末は天神の親不孝通りに行って、あとは二見ヶ浦の海か九千部山に夜景を見に行くぐらいしか遊びに行く場所がなかったんですよ。
逆にそれ以外は何十年も特に接点があったことはない場所でした。佐賀に抜ける道ができてからは、佐賀に行くときに車で通り過ぎることはあったと思うんですが・・。
<章子さん>私も那珂川町が市になったことやなんとなくの場所ぐらいは知っていましたけど、それ以上は全く知らない場所でイメージすらできなかったです。だから最初はピンとは来ていなくて、正直に言うと、(福岡市にある)南福岡駅と(那珂川市にある)博多南駅の区別もついていなかったくらい(笑)。

(章子さんが淹れてくださった生ハーブティー、初めていただいたのですがあまりの美味しさに感動しました。)

―確かに、何か用事とか縁がないと来ることがないですよね。そんなおふたりが、南畑のことが気になり始めたきっかけは何かあったんですか?

<章子さん>インターネットでお店を調べていたら、”染めもの屋ふく”さん、”ホキ”さんって、気になるお店が出てきたんです。住所を調べたら「ここも南畑だ、えっ、このお店も!」ってなって。なんだか南畑には気になる素敵なお店や場所がたくさんあるなぁと・・。実はそれで那珂川のことが頭にインプットされたんです。
そんな時に、少しだけ研修に行っていた岡山県にいらっしゃる自然料理の先生から「那珂川に”如庵(じょあん)”さん(*南畑にある自然素材にこだわったうどん屋さん)と言うお店があって、きっと勉強になるから行ってみなさい!」と教えられて。
そこから「南畑」と言うワードが私の中でさらに強く印象に残っていたことが、どんどん興味を持ち始めたきっかけでしたね。

ーそうだったんですね。それから、南畑への移住を意識され始めた感じですか。

<孝行さん>ちょうどその時は拠点を変えたくて家を探していたんですけど、最初は早良の山の方とか三瀬とか、あっちの雰囲気は好きでいいなと思って見に行ったりしていました。それで、ちょっと話が変わるんですが、僕は昔から「森と水源」が好きで、辛いことがあったり悩むこととか何かあると何故か水源を求めてとにかく山に足が向かうんです。九州の各地まで行っていたし、そこで山で寝る方法を必死に考えたり・・。

<章子さん>要は病んでたんですね(一同笑)。

<孝行さん>そうそう半端なく!(笑)。

(明るいおふたりの笑顔におもわずほっこりさせられてしまいます。)

<孝行さん>だから、昔から水源のあるところに土地を買おうとしたこともあったんですが、仕事の移動のこととかも含めていろいろ考えているとやっぱり「街に近い里山」が自分にとっての理想だなという感覚を持ちました。それで自然があって水がいいエリアで探し回っていたのが前提としてあって、ただ、最初はまだ南畑には辿り着いていなくて、他の場所が候補地に上がってたんですけど。

それから、僕の場合は造園を生業としていて、今の家を選ぶ条件としても、「木花をたくさん置けること」、「敷地内で畑ができること」っていうのもあったんですけど、この物件が出ているのを偶然見つけて、ここは綺麗な川も側に流れていますし、そもそも山ですし、まさに僕の五感が求めているような環境でした。決めるまでは何度も南畑に足を運んでみたんですが、最終的にこの場所に辿り着くことができたっていうことは、少なくとも、南畑に対して、自分の理想に近い場所というイメージを無意識の中で少しづつ育んでいたのかなという気はします。あと、そのタイミングでちょうど南畑美術散歩(*秋に行われる南畑の芸術イベント)があり、トゥクトゥクに揺られながら南畑を見て回れたことは移住を決めるにあたって結構大きかったですね。

<章子さん>そうだよね、南畑美術散歩で地域や工房をぐるぐる見て回れたのは、自分たちの中で本当にとても良いタイミングで、いい体験をさせてもらいました。

(昨年の南畑美術散歩ではトゥクトゥクで秋の南畑の風景を楽しみながら工房を回ることができました。)

―美術散歩にもお越しいただいていたんですね!そういった中で南畑を選ばれた決め手はなんだったんでしょうか。

<孝行さん>南畑美術散歩に参加してみて、地域の雰囲気を知ることができたし、南畑自体、住民の皆さんが「どうぞどうぞ」って、歓迎してくれている空気感がすごく伝わってきましたよね。
それと、南畑には「本気で何かに取り組む人」がたくさんいると感じられたことも大きかったです。例えば、南畑に移住した作家さんとか飲食店の方もそうですが直接話を聞いてみると、「絶対に水が良くないといけない」とか、「制作するならこういう環境じゃないといけない」とかそういった意識の強さや制作活動とか作品なんかに向き合う世界観や想いがとても深くてマジなんですよ(笑)。それは、今まで自分たちが見てきた他の地域で感じてきたものとはちょっと違う感覚でした。だから、ライフワークにしろ仕事にしろ、自分の軸とするものに真剣に向き合って、この場所を選んでいる人ばかりだなと感じたし、そのスタンスにすごく共感できたんです。自分をよりどころにして、自分の力で未来を切り拓いてく信念のある人が自然とこの南畑に集まっているように感じました。そしてこの場所に自分たちも身を置いて生活したいと強く思ったんですよね。

(家の中には自然にある色々なものが溶け込んでいます。私たちの身近なところにいろんな宝が眠っているのだと逆に気づかされます。)
(植物もたくさん、小さな森のようなディスプレイも素敵です。)

<章子さん>あと、私たちにとっての決め手になったことのひとつに、タイミングとか出会いの連鎖とか不思議なほど全ての流れが良かったんですよね。

<孝行さん>確かに、もうどこかの時点ではこの波には乗っかるしかないって思ってた(笑)。

<章子さん>この家を見に来た時もそうで、最初は自分たちで近くまでちょっと行ってみようかぐらいの気持ちで来たんですけど、如庵さんにご飯を食べに立ち寄ったら、大将がすぐにSUMITSUKEさんに電話を入れてくれたんです。そしたら衛藤さんがすぐに駆けつけてくれて家の中まで見ることができたり、それから出会う人出会う人みんなが親切にしてくれて、すごく印象が良くて。だから気持ち的にも安心して南畑にどんどん向かっていけてたし、ここに来るまでに関わってくださった方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。なんだかこのタイミングでこの出会いがなかったら今ここにはいないかもしれないって思うぐらい・・・きっと縁があったのかな。

だから、まだ物件を決めてない段階なのに、南畑からの通勤ルートを模索したり、用事もないのに遠回りしてでも南畑を経由して仕事からの帰り道にしてみたり、何かにかこつけて「よし!行こか!」ってわざわざ近くを通って(笑)。あと近所の方に暮らしのことを聞いて回ったりもしてみたりもしましたし・・。振り返ってみても、はじめてこの場所を見た日から、もう心のどこかで”ここだ”って決めてたのかもしれませんね。本当に南畑に来れて良かったって思ってます。

(南畑に来てよかったと言ってくださって本当に嬉しかったです。)
(愛猫ののりたま嬢も南畑の空気がお気に入りのご様子?)

―そうだったんですね、めちゃくちゃ嬉しいです。実は私も水崎さんご夫婦はきっと南畑に来てくれるって思っていました(笑)実際に南畑に住み始めて移住前の生活と変わったことはありますか?

<孝行さん>今月で半年とちょっとぐらいかな?なんかもう2年ぐらいいる気がする(笑)。この場所が面白いのは、街なかの暮らしのように、いろいろなことを気にしすぎることなく、自分らしいスタンスで暮らしていけるということかな。
例えば、側の川は中流域だから、洗剤とか使うものを選ぶのはもちろん、浄化槽のバクテリアで排水を綺麗にすることを取り組んでみたり、それが下流にも良い影響を与えることになりますよね。別に環境問題に対して積極的に行動を起こしているってつもりでもないんだけど、要はそういった自分の想いに対して素直に行動できる場所ということですね。ここに住むと自然とそういう意識は強くなってきます。だから視野が広くなったというか、いろんなことの本質が見えてくるようになったし、いろんな意味で居心地の良さを感じていますね。

<章子さん>変わったことで言うと、「いい意味で諦めがつくようになったこと」があるかな。
もちろん近くにお店があるわけではないから、冷蔵庫に野菜がなければ、お庭に出て何か摘んでくればいい。無いものは工夫して他のもので代用してみようって気持ちが強くなって、色々なものを自分で作ることが増えたし、まずは自分の力でなんとかしてみようと考えるようになりました。
おかげ様で夫婦ともにたくましくなったと思います(笑)。でも、そうやって生活していくうちに、いろんなものがいらなくなったんです。
生活をシンプルにすることが、豊かな暮らしへの近道だったのかもしれません。

(保存容器に詰められた様々な自然の恵みたち。)

<孝行さん>引っ越す前は畑をたくさんしたいと思ってました。以前住んでいたところでも作物を作っていましたしね。
でもここに住んでいるとそれさえもしなくていいんだなって気づきました。
山って食べ物の宝庫。家の周りにはみんなが知っているような山菜や筍はもちろん、桜、もみじの新芽、柿の葉、金木犀、
とにかく四季折々食べられるものってたくさんあるんですよ。
香りも味も信じられないくらいフレッシュで、手を加えていない自然のままの山や土で育ったものが、こんなにも美味しいなんて知りませんでした。ある意味、もう自然農法ですら通り越してますよね。

<章子さん>それにこの家は前のオーナーさんが果樹とかいいものをたくさん植えてくださっていた家なので、本当にいろんなものに恵まれていてそれもありがたかったですね。もう八百屋さん行かなくてもいいのかなって思うぐらい(笑)。

(庭先で採れる果樹は色づきも良く香りもすごくフレッシュ。)

<孝行さん>あとは、やはり動物たちとの距離感もすごく近い生活です。もちろん困ることもありますけど、そもそも彼らが先住者ですしね。こういう場所で暮らしていくなら、人間の都合だけで動物たちの環境を壊したくないし、根本的にそういう意識を持ったりとか、その関係性に慣れていかないと共存していけないんだなと思いました。
ただ、たいていが許容できる範囲のことなんですが、猪にはだいぶ悩まされましたね。荒らし方のレベルが他の動物の次元とは全く違っていて、朝起きたら畑なんかが全部ひっくり返されてたりするので、やられた時はさすがに愕然とすることはあります。

でも、面白いこともあって、動物から勉強させられることがあったりするんですよね。例えば、アライグマって栗の皮だけ残して、渋皮ごとキレイに実を食べていくんです。つまり、渋皮にはとても栄養があるってことを教えてもらえるんです。筍もそうですからね。人間は先の方をよくすすんで食べたりするじゃないですか?、猪は根本あたりの赤紫に色がつくところを食べるんですけど、実は一番栄養価が高いのもそこなんです。野生動物は本能的なのか、そういうことを知ってますからね。面白いでしょ?

(水崎さんのお話はいろんな視点で興味深いお話ばかりです。)

―私も南畑出身ですが、本当に勉強になるお話ばかりです。あと、ここは市ノ瀬地区になりますが地域の方との関わりなんかは移住されてからはいかがですか?

<章子さん>引っ越して来てすぐに小組合に入ったんですが、地区のみなさんにとても歓迎していただいてます。しかも、この小組合の中で私たちが最年少だよ!って・・私たちももういい歳なんですけど(笑)。
この辺りの組は11軒しかないので4年に1回のペースで組長の役が回ってくるんです。今年は越して来たばかりで、まだわからないことばかりだったので役に就いてはいませんが、来年から少しずつ関わっていけたらいいなと考えています。

<孝行さん>地域の草刈りにはもう参加してきましたが、集合場所が「いつものところ」とか「あそこの曲がり角」とかになってて(笑)、少しずつ覚えていっています。あと、地域の祭りごととかも興味あるので行こうと思っています。毎月月初めに作家さんたちが日吉神社にお参りされたりされてますよね。そう言う南畑の風習もこれから色々知りたいですね。

(市ノ瀬地区にある日吉神社、夏祭りもここで開催されるんです。)

―おふたりの話を伺っていると、この場所だからこその恩恵や大変さも色々なことを引っくるめて暮らしを愉しまれているのが伝わってきます。これから水崎さんご夫婦がやっていきたいこととかこの場所での暮らしの未来像はありますか?

<章子さん>正直たくさんあるんですけど、ひとつあげるとすれば、ここで採れるハーブや野草や果樹のようなものだったり自然の恵みを使って、それが「食べる」ということだけでなく、暮らしの一部にあって「生活していくこと」みたいのものをみんなでやっていけたらいいなって考えていて、発信もしていきたいですね。なんだか今の時代は仕事をすることが生きることみたいになっちゃってる人も少なくない気がしてて・・。

<孝行さん>そうそう、森での暮らしって、常に基本としてあるのは朝起きてご飯を釜で炊いて、味噌作って味噌汁を食べて。糠から漬物を作ったりとか。だから特別なことがしたいというより、むしろ縄文時代の人たちはこうやって暮らしてたんだろうなって思えたりもしてくるんですよ。逆に新しいというか、だからちょっと極端な言い方をすれば、世の中は便利になってつくられたものを消費するばかりだったりするけど、本来、あるもので生活をしていくとスーパーに行くことですら違和感を覚えてくるかも知れないですよね。生きていくことの原点に近い部分なのかもしれないですが、当たり前のことが普通にできる暮らしをしていきたいですね。

<章子さん>ほんと、私たちのこの環境や南畑の豊かな自然は宝の宝庫だったんだ!って実感してますね。だから、今のままの南畑が変わらないでいて欲しいなって思います。

(気づいたら予定以上の時間があっという間に・・・。水崎さんご夫婦を取材させていただいて、南畑ってやっぱりいい場所だなって何だか誇らしく思えた自分がいました。)

―たくさんのお話ありがとうございました。最後になりますが、移住を検討される方へのメッセージをお願いします。

<孝行さん、章子さん>私たちの時もそうでしたが、SUMITSUKEさんのバックアップも心強いし、南畑の人はいつでも受け入れてくれる人たちがいらっしゃるのは本当ありがたいですよね。もちろん子育てをされるご家庭にとっても整っていると思います。整っているというのは、里山の本当の暮らしをしながら子育てができる環境ってことです。小学校も幼稚園もあるし、街の人はキャンプをしに山に来ますけど、ここには山も自然も当たり前ですから。南畑ならきっと自分次第で里山本来の暮らしが楽しめるはず。

それに、小さい頃から南畑のような環境で育って五感を鍛えることってとても大切で、大人になってからじゃ感じ取れないものがたくさんあるような気がするんですよね。その経験は、きっとその先の人生でもプラスになってくるし、何物にも代え難い財産になるはずです。

出会いって偶然のようで、必然。それが全てを繋いでくれるんです。
普段の生活でもいずれやろうだとなかなか実行に移らないことがあると思いますけど、チャンスは一瞬ですからね。その一瞬を見逃さないで欲しいです。

(ちょっと照れくさそうにツーショット写真に応えてくださいました(笑)。)

水崎さんご夫婦が辿り着いた山奥に静かに佇む一軒家。
そこに暮らすお二人の様子は、まさに“森の住人”という言葉がしっくりきます。
自然を愛し大切にする温かい心が、こんなにも魅力的で豊かな暮らしに繋がることを、今回のインタビューで教えていただきました。

思い返してみると、ご夫婦を初めてこの場所にご案内した日、車の前をもの凄い勢いで猪が駆け抜けて行ったんです。
あわや直撃!という場面に出くわした私たち。車内で大騒ぎしたのをよく覚えています。

あの猪はお二人を歓迎しにきてくれていたんだと、私は密かに思っています。