18

INTERVIEW

みんなと一緒に愛せるようになった地元

インタビューアー / 柳屋あづさ

[パン工房 mina pann 店主] 杉野美奈さん

成竹地区にあるパン工房「mina pann(通称ミナパン)」店主。地域への関心が高く、日頃からPRイベントや移住者との交流など積極的に参加している。元々はパン教室を営んでいたが、2017年に美術教師であった父親のアトリエを改装し工房をスタート。現在は、地元野菜や果物を使ったパンをテーマに日々丁寧に焼き続けている。

成竹の細道を通り抜けた先、豊かな緑に囲まれた場所にあるパン工房「mina pann」。お店へエスコートしてくれるのは、その道すがらにあるお手製の看板。思わず店主の温かい人柄が伝わってきます。
到着するなり、開けた視界と庭付き木造古民家が現れ、自然と気分が上がる雰囲気。
今回は、日頃から住人同士の交流や南畑PRイベントなどにも積極的に参加しているミナパンの店主、杉野美奈さんに、地域との関わりを中心にお話いただきました。

美奈さんは一度、南畑を離れて戻ってこられたわけですが、南畑に帰ってきたり、「ミナパン」をオープンされたのはどんな経緯だったのですか?

きっかけは、両親が高齢になるにつれて車も運転できなくなってしまって。自分が面倒を見ないとなっていう責任感からですかね。
それで南畑に戻ってきて住み始めたのが、ちょうど6年前ぐらいかな。元々住んでいた筑紫野市の自宅ではパン教室をしていて、南畑でも同じく最初はパン教室だけをしていたんです。

まだ、minapannをオープンする前から、私がパンを作っているということはなんとなく知っている方がいらっしゃって「美術散歩(南畑で行われる秋のアートイベント)でもパン出して」って誘ってもらったり、ご近所さんたちが「美味しい」って言ってくれたり、「南畑はパン屋がないしお店してくれたらいいのに」とか、ありがたいお言葉をたくさんいただいて。そうやって、まわりの人たちが喜んでくれることはとっても嬉しかったです。

そんなことをきっかけに作家活動をしている父のアトリエを改装して、本格的にスタートしたのが3年前。当時は今と違って週末だけオープンするかたちでミナパンは始まりました。

美奈さんと言えば、地域や住民と積極的に関わっているという印象です。

お店では、地元農家さんの野菜や作家さんの作品を販売しています。美術散歩のときも、最初の頃はミナパンとしてパン屋は始めてなかったんですけど、食べたり休憩できるところが少なくて、「出してよ〜」って誘われてパンを焼いたりしていました。
他にも、地域のためにお役に立てそうなイベントには積極的に参加していますね。

身近なところで言うと、営業後のお店でバーベキューや鍋パーティーを開いて、みんなが交流できる機会を作ったりとかですかね。私の周りには若い移住者の方々も多くて、その人たちにも積極的に声をかけてますよ。
個人の家でやるってなるとなんか気を遣いがちだけど、ここはお店なので。誘う時も「約束」って感じじゃなく「来れたらおいでね」くらいの気軽さを意識しています。そっちの方がきっと顔を出しやすいと思いますし、そこでまた横のつながりが広がったりするじゃないですか。
「せっかく南畑に来たのに寂しい思いをして欲しくない。南畑に来たことを後悔して欲しくない」っていう気持ちは強いんです。

昔からずっと南畑にいるようなイメージなので、戻ってこられたのが6年前というのが意外でした(笑)子どもの頃は南畑で育ったんですよね?

はは(笑)まず、生まれが南畑ではないんです。50年ほど前に父が那珂川中学校の美術教師として赴任したのがきっかけで、移住してきました。私は幼稚園生ぐらいだったのかな。当時、移住者はほとんどいなかったというか、たぶん父が移住者1号なんじゃないかなってぐらい。
まだ南畑村だった時代ですから、大半の家は農家でした。だから、田植えや稲刈りの季節は子ども達も貴重な戦力になっていて、小学校のとき「農繁期休暇」なんていう珍しい休校期間まであったんですよ。
その間、農家の子どもではない私は友達と会えなくて寂しかったし「自分は皆と違うんだ」っていう疎外感をいつも抱えていました。今では、小学校は農業体験とかやってるでしょ、でも私は1回も田植えも稲刈りもしたことないですよ(笑)

その後、中学・高校と実家から通っていたんですけど、「交通は不便、変な虫は出る、冬の朝は寒い」の三拍子。言葉を選ばずに言うと、田舎が本当に嫌で嫌で、嫌いだった(笑)だから「卒業したら絶対に出ていくけん!」って両親に宣言してたくらいです。
実際、高校卒業後は、パーッと南畑を離れてずっと別の場所に住んでましたし、6年前に戻ってくるまで一度たりとも帰ってきたいと思ったことはなかったです(笑)

さらに意外でした(笑)それで6年前は、気持ち的にはすんなりと戻ってくることができたんですか?

いやー、嫌で嫌で「なんで戻ってくる羽目になったかいなー」って。マイナスな気分で帰ってきました(笑)

ただ、南畑の様子が変わっていたことは新鮮でした。きれいなお家が増えていて、若い世代が移住してきていたんです。しかも「福岡市の中心部から移ってきました」とか「ここに住みたい人がまだまだたくさんいますよ」って聞いて。当時の私からすると全く理解できなくて、「なんでー!」「田舎の暮らしの不便さを知らんやろ?」って、叫んでたんですけど。

だけど、みんな南畑での暮らしを楽しんでるじゃないですか。そんな姿を見ているうちに、逆にいろんな南畑の良さを教えられました。
もちろん、それでも最初から素直に楽しいとは思えなかったけれど、だんだんと、見えてなかったものが見えるようになったって感じですかね。私の中でも少しずつ前向きな気持ちの変化が起きてきました。

移住者の人たちが教えてくれた南畑の良さ、なんだか不思議な感じですね。

私ね、輪越しとか千灯妙(南畑の古くから続くお祭り)の存在すら知らなかったんです。それをみんなに話すと「嘘でしょ」って。
だって当時は、大濠の花火大会とか街のイベントに行くのに忙しかったから。博多山笠とか前日入りですし(笑)とにかく都会への憧れで頭がいっぱいだった。でも、実際に参加してみて「南畑にこんな素敵な行事があったんだ」ってめちゃくちゃ感動しました。
他にも楽しんで生活しているみんなの様子を見たり聞いたり、その輪に入っていったり、気づいたら自分でも嘘みたいに南畑が大好きになっていたんですよね。

それに、大事だなと思ってる部分でもあるんだけど、みんな田舎ならではのデメリットともうまく付き合っていて、イヤイヤ生活していないからこそ魅力的に見えるんですよね。
そんな人たちと出会えたおかげで、自分自身も変化できたんだと思います。今なんて地域のことを第一に考えてますからね。変わったでしょ?(笑)

そうやっていくうちに、元々地域にいた人たちの役目っていうものも感じ始めました。
若い世代が、本気で南畑にずっと住みたいと思って家を買ったり、大きな決断をして来てくれているわけじゃないですか。だから、本当に南畑に来て良かったって思ってもらわないといけないって。

それともうひとつ、南畑の区長さんたちが地域のことを良くしようって一生懸命に頑張ってあるのもすごいなって思いました。
私なんかよりもっと年配のおじいちゃん世代ですよ。その背中を見て、あんなに頑張ってくれているのに私たちも地元のために何かできることは力になれればなって思いましたよね。

だから、南畑に興味を持ってくれる人にもっともっと魅力を伝えたい気持ちでいっぱいなんです。地元のために一住人としても、お店だからできることもやっていきたいです。

ー素敵なお話ありがとうございました。美奈さんのような南畑愛を持った方々やお店の存在が私たちにとっても自慢です。最後に移住を希望している方々にメッセージなどあればお願いします。

やめときなさい(一同、笑)というのは冗談ですけど、不便ですよ、ムカデでますよ、だから良いところばかりだけでなくて、そうじゃない部分にも目を向けて覚悟はして来てもらった方がいいですよね。田舎と聞いて想像する不便さとかって、実際に体験してみないと分からないし大抵想像を超えてきますから。
あとで後悔して欲しくないし、いいよいいよだけじゃなくて、そういう部分もちゃんと伝えないといけないなって思うんです。
それも含めて田舎の暮らしを受け入れることができたら、その先には、考え方次第ですけど、南畑では本当に豊かな時間が持てる環境があるのかなぁって思います。

自分自身の見方を変えれば、諸々受け入れられるようになるものもあるし、そういう意味では、いま移住してきてくれている人たちは私には見つけきれなかったような価値観をどんどん見出してくれて、「実際に住んでみて、ますます好きになりました!」って言ってくれるので、私も本当に嬉しいんです。
そしたら今度は、私や元々いる人たちとか、受け入れる側も「もっとなんかしてやらんと」って思えるので、それで良い雰囲気になっているのかなと思いますしね。

だから、ちゃんといろんなことを踏まえて、やっぱり南畑いいなって思えたら来て欲しいし、ここならではの豊かな生活が待っているっていうのは、実体験からも本当の話だと思いますよ。

いつも元気で明るく接してくれる杉野美奈さん。その手で一つ一つ焼き上げるパンには、時を超えて南畑を愛することができるようになったという喜びと、自分を変えてくれた素敵な仲間たちへの感謝が込められているように思いました。

 

mina pann
住所:福岡県那珂川市大字成竹419
営業日:金・土・日曜日 11:0016:00(なくなり次第終了)
駐車場、駐輪スタンドあり
instagram
team_mina_pann