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INTERVIEW

モノ作りの原点。おじいさんの蔵で始めたいこと、現在進行形。

インタビューアー / 長尾牧子

[ジュエリーアーティスト] 三森 勇さん

福岡県出身。イギリスでTシャツやアクセサリー デザインから制作までを行い、帰国後 Web制作、アーティストのグッズデザインから生産までをも手掛けていたが、やっぱりモノ作りをしたい ! という思いから再度本格的に彫金をはじめる。現在は結婚指輪のオー ダー制作等を手掛ける傍ら、南畑の自然を活かしたウエディングのロケーションフォト、ムービーの撮影も行っている。

2016年秋、南畑の蔵を改装して、彫金のアトリエと撮影スタジオ、カフェスペースを併設した「THREE TREES」をオープンした三森さん。実は、この蔵はもともと三森さんのおじいさんのもの。南畑は小さい頃から慣れ親しんだ場所でもある。
南畑を拠点に仕事を展開することになった三森さんに、活動するリアルを語っていただいた。
(以下、文中「那珂川町」は取材当時、現在は「那珂川市」になります。)

THREE TREES

「THREE TREES」オープンのきっかけを教えてください。

南畑には祖父が住んでいたので、子供の頃からよく遊びに来ていたんです。特にこの蔵ではよく遊んでいました。スコップで穴を掘ったり、ナイフの使い方を覚えたりしたのも、全部ここ。僕のモノ作りの原点だと思っています。大人になってからも「モノ作りをやりたい!」という思いで色んな仕事をやってきて、結局今は彫金でのジュエリー制作をしているので、この蔵は僕自身の原点とも言えますね。
南畑に拠点を置くきっかけになったのは、ちょうど当時よく依頼を受けていたウエディング撮影のロケ地として自然の多い 南畑を使うことがあったんですよね 。その時に「ロケーションフォトを撮るのには最高かも !  山も、川も、森もあるし、ちょっと山を越えれば海にも行けるやん !  撮影のバリエーションがたくさんあって、季節によってもイメージが違う作品が撮れるし結構いいじゃん !  南畑 ! 」って(笑)。こんな最高の自然のスタジオの近くに アトリエ構えたら、一石二鳥だと思ったんです。
元々は福岡市内で拠点を探していました。でも、探していくうちに市内では人もスタジオも多すぎて、僕のやりたいこととはちょっと違うな、と感じるようになって。那珂川町は福岡都市圏からの距離感はちょうどいいし、当時すでに祖父の蔵が空いていて、これは南畑アリかもな、と思い始めたんです。

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「THREE TREES」の内装はほとんど全てDIYなんですよね。手間も時間もかかったかと思いますが、できあがるまではどんな風に進められたんですか?

実は、南畑に拠点を置こうと思い始めた頃は、まだそこまでやる覚悟はなかったんです。でも、南畑ってDIYでお店を作られているカフェやパン屋さんがあるんですよね。その方たちのところを尋ねて、祖父の蔵の話をしてみたんです。そうしたら皆さん改装に大賛成。口を揃えて「やってみればいいじゃん!」むしろ「なんでやらないの!?もったいない!」って(笑)。そんな風に言われているうちに「やっぱりここでやる運命なのか〜」と思うようになったんです。南畑の大先輩たちに背中を押してもらった格好ですね。祖父が亡くなって以来、長いこと放置状態だったので、中に何があるのかもよく分からない状態で、とにかくまず出す、というのが最初のステップでした。農機具なんかの大きなものは買取業者に引き取ってもらって、いらないものは処分業者に持って行ってもらって。出した荷物は軽トラ7台分もありました。

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荷物を出してからは、部屋を高圧洗浄して壁を塗ったり、畑をひとつ駐車場にすると決めて、梅雨の雨降る中、友人と一緒に木を切ったり 草刈りしたり芝生を植えたり。
2016年の6月に作業を始めて、1ヶ月でここまで行きました。意外と速いでしょ(笑)。
それからは急がずに、ぼちぼち必要なものを作っていった感じです。元々あった棚板を再利用してカウンターを作ったり、半年経ってからやっとトイレができたり(笑)。
孫の僕が帰ってきて片付けや改装をしていると、近所の方たちも「何かしようね」と気にかけてくれるんです。それも嬉しかったですね。DIYは大変と言えば大変ですが、振り返ってみると全部楽しみながらやっていましたね。趣味みたいにして。それは今も進行形です。

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「THREE TREES」には福岡都市圏からのお客さんや近所の方々が入り混じって、今までにない人の流れができているように見えます。オープンして半年経った感想を聞かせてください。

そもそも、当初考えていたのは彫金のアトリエと写真スタジオ(イベントスペース)とヘアメイクやお着替えを行える部屋だけでした。そこにカフェスペースを作ったのは、不便な場所まで来ていただいたお客様に、ゆっくりしてもらえる場所があればと思ったからなんです。特に、ウエディングで関わるお客様とは長いお付き合いになりますから。都会にはない、自然を感じる時間も過ごせますしね。
でも、いざオープンしてみると、思った以上に地元の方たちがたくさん来てくれたんです。子供の頃には知らなかった近所の方たちがここを尋ねてきてくれて、思い出話に花が咲いたり。最近は、学校帰りの小学生たちも挨拶してくれるんですよ。こんなにたくさんの人が来てくれるとは思っていなかったので、正直びっくりしています。でも、そんな地元の方たちとの繋がりは大事にしたいですね。

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それから私事なんですが、僕が南畑に拠点を置くことで、すぐ近くに住んでいる祖母や叔母もなんとなく安心してくれたみたいで、それも嬉しいんですよ。南畑には小さい頃からお世話になっているので、家族も含めて、この地域に恩返しできたら、という気持ちもあるんです。
ただ、色んな方と出会えて嬉しい反面、本業の彫金に使える時間が少なくなってしまっているのが今の悩みです。僕にとっては、あくまでアトリエがメインなので。アトリエで作業する時間を増やしていくために、運営時間なんかもちょっとずつ試行錯誤しながら変えていこうと思っているところです。誰か、カフェ専門でやってくれる人がいたらなあ()。こ れ本当です。期間決めて色んなお店が入れ替わるとか 面白いと思いますよ。興味ある方はご連絡ください

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これからの「THREE TREES」の展望を教えて下さい。

これからやりたいこと、構想や妄想は色々ありますよ(笑)。
でも「THREE TREES」は僕が真ん中、じゃないんですよね。僕が直接関わらなくても、ここで出会った人たちが、面白いことやろう!となったとき、このスペースを使ってもらえたらと思っています。色んなことができて、色んな人が来て、またその繋がりの中から、楽しい仕事も生まれると思っているので。
ちなみに、これまでやってきたのは、メガネ作りやスワッグ作りなど、モノ作り系のワークショップ。スワッグのワークショップは、SUMITSUKEで移住を決められたご夫婦と一緒にやったんですよ。ほかにも、癒しの時間として、 那珂川町在住のギターリストの方のJAZZギターライブをコーヒーやワインを飲みなが らやりましたね 。そうそう、今はここで朝ヨガもやっています !  こちらはこととば那珂川さんがきっかけで始まって、最近は近隣の方の参加も増えてきてるんですよ。
今ぼんやり考えてるのは「THREE TREES」の建物のちょっと先にある、芝生スペースの使い方ですね。木を切ったりしてずっと整備してきたんですが、ようやく芝も生えそろってきて。あそこで朝ヨガをやってもい いし、ちょっとした音楽イベン トや外遊びのワークショップ とか、ちょっと贅沢なキャンプをやってみても……うーん、やっぱり妄想が広がっちゃいますね(笑)。

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これから、南畑への移住や活動を考える人たちへのアドバイスがあれば。

僕は、都会でも生活してきたので、ある意味ニュートラルな位置にいると思っていて、田舎と街との違いを色々感じることができるんですね。
南畑って、いい意味でも悪い意味でも、ちょっと違う時間が流れているんです。自然の中でリラックスできるのは最高なんですけど、同時に、気を抜くとつい怠けてしまう、という面もあったり。やらなきゃいけないことがたくさんあっても「ま、明日でいっか。」みたいな。だからセルフコントロールが大事ですね。集中して仕上げなきゃいけない仕事は敢えて別の場所でやる、とか。そうやって切り替えていかないと、心地よさに流されそうになる。贅沢な悩みですよね(笑)。
草刈りのような、都会ではまったく考えられないタスクもあって、仕事と別に、想定していなかった時間を使うことになります。虫もイノシシも猿もタヌキもアナグマもアライグマもモグラも、色んな仲間が遊びに来ますしね()
それからもちろん、ご近所づきあいはすごく大事です。何も難しいことではなくて、基本は「挨拶」からなんですよ。挨拶をすると、そこからすごく関係が広がっていくんです。最近は採れたてのお野菜を持って来てくださる方もいて本当感謝感謝です ! まあ、全部ひっくるめて楽しめるのが一番ですね。ご近所とのコミュニケーションも、草刈りの大変さも(笑)、全部まとめて楽しんでしまうのがいいと思います。

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蔵のDIYも、予想外のタスクも、地域の方たちとの交流も、ぜんぶひっくるめて楽しむ柔軟さが印象的な三森さん。「周りの人たちが面白いことをできる場になれば」というオープンなスタイルは、地域の方にも移住者にも魅力的なもの。これからも日々アップデートしていく「THREE TREES」から目が離せません。