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INTERVIEW

地域ぐるみで人を育てる

インタビューアー / 長尾牧子

[南面里区長] 藤野茂成さん

南畑地区在住60年以上。子ども4人を南畑で育て上げ、現在は孫10人。会社経営の傍、地域での学習ボランティア活動、田んぼ仕事など多忙な日々を送る。

南畑地区ではいま、子育て環境を求めて移住を検討する若いファミリーも少しずつ増えている。福岡市へのアクセスと自然の豊かさの絶妙なバランスはもちろん、実は、地域ぐるみの教育に対するスタンスも魅力のひとつ。今回は、南畑地区の小中学生のために、地域の教育ボランティア活動に参加されている藤野さんに、南畑地区での教育への取り組みについてお聞きした。

SUMITSUKE那珂川の移住事業では、ここ数年若いご家族からの問い合わせが多くなっています。南畑で子育てをしたいというご家族が増えているんですね。

それは嬉しいですね。もちろん、豊かな自然がたくさん残っているのは魅力ですが、地域ぐるみで子どもたちに関わっていこう、という気持ちがあるのが南畑地区のいいところだと思います。

たとえば南畑小学校では、南畑地区に工房を構える作家さんを招いて、学年ごとに草木染めや陶芸に触れる授業があります。小学校の運動会は、子どもたちだけではなくて、地域みんなにとっての一大イベントですよ。家族はもちろん、近所の人たちも集まって応援しています。
南畑幼稚園では、子どもたちが自分で育てた野菜を使ってカレーパーティーをする行事があるんですが、これも地域の人が見守りながらやっているんですよ。
人や地域とのつながりを大切にする、というのが南畑地区の空気なんだなと思います。

南畑地区の子どもたちを取り巻く環境の良さにはいつも感銘を受けています。さらに、 “南畑の本2”では学力面でのしっかりした取り組みも紹介されていましたね。地域の方たちの情熱の源はいったいどこなんでしょう。

実は昔、南畑の学生はとても優秀だったんですよ。南畑中学校もありましたしね。南畑から世界に羽ばたいた人たちもたくさんいました。
でも、子どもたちが減ってきてからは、少しずつ学力テストの結果も振るわなくなってきていて。昔を知っている地域の人達が、これは一大事!なんとかしないと!と立ち上がったのが始まりなんですよ。

具体的には、どんな取り組みをされているんでしょうか。

たとえば、毎週金曜日に公民館で開かれている“質問塾”(※)ですね。塾が遠くて通いづらい子どもたちのために、南畑小学校の元校長先生が始められたんですよ。小学校4年生から中学生までだれでも気軽に来られる地域塾です。
他にも、小学校では週1回“花まる先生”という時間があるんです。これは、地域の人たちが学校にやってきて勉強の進み具合を見て、子どもたちが本当にわかるようになるまで繰り返し丁寧に教える、という取り組みです。最初は先生ではない、近所のおじちゃんたちが教室にやってきてびっくりしていた子どもたちも、今はすっかり慣れましたよ。
それから夏休みには、各地区の公民館で、学校の宿題を地域の方が見てあげる “チャレンジ教室”も開かれていますね。子どもたちの参加率もとても高いです。

素晴らしいですね!情緒面だけでなく学力面でも、地域の人たちが南畑地区の子どもたちのことを一生懸命考えていらっしゃるのが伝わってきます。

小学校や中学校は、長い人生の中の最初の学びです。大事な基本をしっかり固めた上で、子どもたちにはこれからも元気にぐんぐん伸びていってほしいです。
最近では学力テストの結果にもいい兆候が見え始めていて、地域総出での取り組みは間違っていなかったんだなあ、と感慨深い思いですね。これからも一歩一歩、地道な取り組みを続けていきたいと思います。

南畑地区内には小学校までしかなく、中学高校と進学するにつれてどんどん通学が大変になっていきますよね。中にはお引越しされてしまうご家族もいらっしゃって、仕方ないことですが、少しもったいないなと思ってしまいます。

確かに中学校以上は通学が大変になりますが、長く住んでいる人は「運動のできない子でも基礎体力がすごくつくよ!」なんてポジティブに捉えていたりして、これも南畑地区のおおらかなところかもしれませんよ(笑)。

もちろん、理想を言えば、やっぱり交通環境がもっと整うといいですよね。

でもね、豊かな自然や地域の人に囲まれてのびのび強く育つことはもちろん、学力の面でも南畑の子どもたちはしっかりと基礎学力を身につけている、そういう評判が広がっていけば、多少不便でもここで子どもを育てたい!というご家族は増えると思いますよ。
そういう方たちと一緒に、これからの南畑を守っていきたいですね。

僕は、微力ですが南畑小学校を中心とした地域でのボランティアを続けていくことで、南畑の教育に貢献できたらな、と思っています。
いつかは南畑小学校が筑紫地区でいちばんの小学校になってくれたら、というのが僕の夢ですね。

ゆったりと語る藤野区長の眼差しには、厳しい社会を生きてきた先輩としての生き抜く知恵が込められていた。南畑の豊かな自然に包まれ、いくつもの温かなまなざしに守られてすくすく育つ子どもたち。そんな彼らが大人になって振り返る先には、美しい風景と一緒に、藤野さんをはじめとする地域の方たちの笑顔もしっかり写り込んでいるはずだ。

 

※質問塾
毎週金曜日の夜に開かれる地域塾。”考える力”を身につけることを目標に、分からないところを気軽に質問できる場。南畑小学校の卒業生も先生として参加している。