小高い丘の途中に佇む築100年の古民家。一歩足を踏み入れると、日本家屋の趣を残しながらモダンに再編された美しい空間が広がっています。 空間づくりのプロである財前さんご夫婦は、この場所を自宅兼店舗として再生し、次世代へとつなぐことを選びました。 お二人がこの場所と出会い、理想を形にするまでの歩み。そして、南畑で育んでいる日々の暮らしについて、じっくりとお話を伺いました。

(まず目に入るのは、玄関横の続き間の和室。趣のある建具を残すことでやわらかな雰囲気に)

(玄関では立派な柱と梁が出迎えてくれます。この家が建てられたのは大正時代だそう)

(古材の重厚感と調和する洗練されたライティングやインテリア)
− 見惚れてしまうほど素敵な空間ですね。お二人は移住先として色々な場所を見に行かれたそうですが、この場所とはどのように出会ったのでしょうか?
雅子さん:お店を開くという目標があったので、最初は早良区や糸島市など福岡市周辺で自宅兼店舗となる物件を探していました。でも、自分たちがやりたいことを実現できるイメージの物件になかなか出会えなくて。
直人さん:そこで新築も視野に入れてエリアを再検討する中で那珂川市が候補にあがり、「せっかくなら自然豊かな南畑地域がいいね」という話になりました。休みの度に物件を見に行ったりして、探し始めて1年経った頃、スミツケの空き家バンクでこの家を見つけたんです。
− そんな経緯があってスミツケにいらっしゃったんですね。この家を購入しようと思った決め手は何だったのでしょうか?
雅子さん:私は「ポツンと一軒家」みたいな家に憧れがあったので、まわりに建物が多くないのが良かったです。目の前には里山の風景が広がっていて、でも、お隣はお寺さんでご近所さんも居るので、何かあった時の安心感もありました。
直人さん: 国道などの大通りに面していない点も魅力でしたね。空き家バンクの写真を見た時に「となりのトトロに出てくる田舎の風景みたいだね」って気に入って。現地で周辺環境を確認した上で、スミツケに連絡をしました。雨の日はどんな感じかな?とか、ハザードマップはどうなってるかな?とか、購入前に色々と下調べをしましたね。
(庭先には雅子さんが大好きだという自然豊かな風景が広がります。この眺めに心が落ち着くそう)
雅子さん: それと、この家の購入の決め手の1つに、スミツケの皆さんとお話したことがあります。自分たちの希望を伝えたり地域の話を伺ったりする中で、ここには移住者や何かを始めたい人を温かく受け入れてくれる土壌があると感じました。ここでなら自分たちのペースで新しいことを始めていけるんじゃないかと思ったんです。
直人さん:移住交流センターの雰囲気や皆さんのお話に安心して、「南畑っていいね」ってなったんです。
―そう言っていただけて、本当に嬉しいです。地域での暮らしについて少しでもお二人の安心につながっていたなら良かったです。ただ、当時、この物件は母屋部分は築100年を目前に迎えていた古民家で雨漏りがあったり残置物も多かったりと、「これは手に負えないかも・・」と諦める方もいらっしゃった物件です。初めて物件に入った時、どのような印象を持たれましたか?

(残置物の残る、当時の物件の様子)
雅子さん:確かに残地物は多かったので生活感はありましたが、住んでいた方が「ここを大切にしながら生活していたんだな」と感じられる雰囲気があって、マイナスなイメージは持ちませんでした。それに、実際に中に入ってみて、建物をじっくり見ていると立派な梁や柱、趣のある縁側などが残っていて、この家が持つ古き良き味わいに心惹かれたんです。
直人さん:僕も残置物にはあまり目がいかなかったです。他の地域でも色々と古民家を見て回ったんですけど、それまでに見てきた物件と比べても建物本体の状態が良い物件だなと思いました。
雅子さん:雨漏りはあったけど、白蟻の被害は無さそうでしたし床の傾きもあまりなかったので、構造躯体に関する心配はそこまでありませんでした。母屋の横にある蔵にしても、表面的な傷みはあれど、こんな綺麗な状態で残っているんだと感心したくらい。
―なるほど。お二人は表面的な部分だけでなく、構造や古民家ならではの意匠など、この物件が持つ本質的な部分やポテンシャルをしっかりと見られていたんですね。内見した後、具体的にどのようなリノベーションを描いていかれたのでしょうか?
雅子さん:当初から、できる限りこのまま、この物件の良さを活かすリノベーションを行いたいと思っていました。構造躯体については、雨漏りの補修や多少の補強等は行いましたが、あとは壁のレイアウト変更や床の工事くらいで、建物を全面的に触るような工事は行っていません。
直人さん:内装についてもそうで、例えば、和室の天井は新しく部材を貼ったり色を塗ったりせず、もとの状態を活かしています。初めて見たときから綺麗だなと思っていましたが、拭き掃除をするだけでこの状態になりました。
(元々の天井を活かした和室は、お二人のお気に入りの場所)
雅子さん:せっかく良い状態で残っているのだから、私たちも大事に使いたいなと思って。
直人さん:ちなみに、この2階の梁は天井を解体したら出てきて「すごいの見つかりましたよ!」って、思わずスミツケの皆さんにも報告しましたよね。
雅子さん:2人で「こんな立派な梁を隠すのは勿体無いよね」と相談し、当初の予定から間取りを変更し、梁を活かす空間づくりをしました。ここの梁も自分たちで掃除をしたんです。手間をかけるとその分愛着もわきますよね。
(天井を解体していたら屋根裏から出てきた梁を活かし、吹き抜けの空間に)

(100年経った今も樹液が落ちてくるそう。家が生きてるように思えます)
直人さん:これも工事中に見つけたんですが、柱にビー玉が埋まっていたり落書きがあったりと子どもたちのいたずらの跡があったんです。何だか可愛いねってそのまま残したり、楽しみながらリノベーションを進めました。
雅子さん:物件のお引き渡しを受けるときも、私たちがこの家を壊さず、改装して残していくということに前の所有者さんもすごく喜んでくださって。ここを私たちなりの方法で次へとつなぐことができて本当に良かったなと感じています。
(柱に残るビー玉。かつての暮らしの面影も大切に引き継がれています)
―建築とインテリアのお仕事をされているお二人ならではの視点ですね。工事についてはどのように進めていきましたか?
直人さん:知り合いの会社に施工してもらったんですが、デザインについては妻が主体で決めていきました。僕は施工方法や建築の納め方を気にする方なので、それぞれの得意分野を活かして進めて行きました。
雅子さん:実は、工事期間中は仕事終わりに毎晩のように様子を見に来ていました。完成がすごく楽しみで、雨の日も雪の日も、その日の進捗具合を確認しに来ていたんです(笑)。
直人さん:家財の撤去を含めると8ヶ月ほどの期間があったのですが、ほんとその間ずっと通っていましたね。そのうち地域の方も工事の様子を見に来るようになって、そこでお話をする機会なんかもありました。
雅子さん:ここは空き家になってしばらく経っていたので、管理の面など近所の皆さんも不安があったんだと思います。見に来ていただいて、安心してもらえるのであれば嬉しいなと思っていました。
(しばらく空き家だったこの場所。今では優しい明かりが灯っています)
―毎晩のように様子を見に来られていたなんて…!完成を心待ちにしていたお二人の想いを感じますね。
そんな想いの詰まった住まいでの暮らしも、早いもので2年が経ちましたね。この家で過ごす時間や、南畑での暮らし心地はいかがですか?
雅子さん:私は初めての一軒家だったので、憧れもありつつ少しだけ不安もありました。移住前は福岡市内で生活していたので、環境はどうなるかなと思っていたんですが、この場所は実は車があれば色んな地域へのアクセスが良くて仕事をするにも生活するにもとても助かっています。
直人さん:そうそう。思っていたより都市部へのアクセスが良いですね。景色が都会から田舎へと穏やかに変わっていく感じが好きで、移動は苦にならないですね。
雅子さん:それから、地域の方々の距離感が心地よいんです。程よく気にかけてくださりながらも、踏み込みすぎることはない。けれど、いざという時には声をかけてくれるのでとても心強いです。
直人さん:そうですね。今日も朝から地域の草刈りがあったのですが、歩いている途中でご近所の方が車で通りかかって。「乗ってく?」と声をかけてもらい、そのまま現場まで送ってもらったんです。そんなさりげない助け合いが日常的にありますね。実は僕、今この地域の評議員(※)をしているんですよ。移住した年の冬、お隣さんから「自分の任期がもうすぐ終わるため、次は君に引き継いでほしい」と依頼があったんです。
※評議員:地域住民の要望や意見を自治会に伝えたり、地域行事の運営を行う役職。
―移住して間もなく地域の役員を任されることに、不安はありませんでしたか?
直人さん:嬉しかったですね。単なる「外から来た人」ではなく、地域の一員として考えてくれているように感じたので、喜んでお引き受けしました。 もちろん、まだ地域のことを詳しく知らない自分に務まるだろうかという心配はありましたが、評議員として活動していく中で、地域のことを知れる良い機会になるのではないかと思いました。
雅子さん:田舎暮らしは行事や集まりが大変だというイメージがあるかもしれません。実際に出事は多いですが、今、私たちはこの暮らしがすごく楽しいんです。根底に、「みんなで助け合って、自分たちの手で地域を守っている」という事を感じるからかもしれませんね。
―すっかり地域に溶け込んでいるお二人ですが、暮らしの中で何か大変なことはありましたか?
直人さん:そうですね・・・僕はあまり虫が得意ではないので、ムカデや大きな蜘蛛には驚きましたね。
雅子さん:私は虫は全然大丈夫でした(笑)。愛猫の「ゆめた」は、最初は新しい環境に慣れずに隠れたりしていたんですが、今では虫とじゃれたり広いお家を駆け回ったりと、のびのび暮らしているんですよ。
(インタビュー中にくつろぐ愛猫のゆめた君)
直人さん:後は寒さですかね~。古民家なので冬は寒くて光熱費がかなりかかりました。特にエアコンの影響を受ける電気代はびっくりする金額になったことも。それにストーブで灯油代もかかるので、薪ストーブをつければ良かったかなと思うことはあります。
雅子さん:移住して最初の冬は電気代に驚きました。でも逆に夏は涼しいんですよ。高台だから風も通るし。エアコンなしで扇風機だけで過ごす日もあります。
直人さん:あと冬は積雪や道路の凍結もあったりするけれど、色々工夫をして生活しています。日々、季節と共に暮らしているなと感じますね。
―南畑の自然も暮らしも楽しんでいるようですね。
お店を開くという夢を南畑で叶えた雅子さん。日用生活雑貨店「いおりのぼたん」はお二人にとってどんな場所なんでしょうか?
雅子さん:私の職業であるインテリアコーディネーターは、自分の感覚は持ちながらも、クライアントの希望に寄り添い提案をする仕事です。自分の個性や好みを出す仕事ではないんです。昔から、小さくてもいいから自分を表現できる場所を持ちたいと思っていて、その表現の場が「いおりのぼたん」なんです。扱う雑貨も自分の好きなものだけと決めています。だから、雑貨をセレクトするのが本当に楽しい!

(雅子さんがセレクトした生活雑貨たち。どれも手にしっくりと馴染むものばかりです)
直人さん:妻が楽しそうにしているのを見て、僕も一緒にできたら良いなと思うようになりましたね。
雅子さん:一緒にギフトショーに行って店に置きたい雑貨の話をしたりして、主人が雑貨に興味を持つようにしてみたり。
直人さん:確かに。色んな雑貨を見ているうちに興味が出てきましたね。販売している雑貨のセレクトは妻の好みですが、僕も隣で見ていて一緒に選んでいる感覚なんですよね。今では、僕の方が店に立つ回数は多いんです(笑)。
―実際にオープンしてみて、いかがですか?
雅子さん: 今はインテリアコーディネーターの仕事が忙しく、お店を開けられる日が少ないので、もう少し営業日を増やせたらなと思っています。それでも、Instagramで営業日をお知らせすると、決して目立つ場所ではないのに、色んな方が足を運んでくださるんです。
直人さん:遠方からのお客様や友人、そして地域の方々もよく寄ってくれます。ご近所のカレー屋「10%(ten percent)」さんで食事をされた後に立ち寄ってくださる方もいて、南面里地域をふらっと巡ってくれるのは嬉しいですね。
(商品の紹介は雅子さんの直筆で。思わず手に取りたくなります)
―今後の展望について教えてください。
直人さん: 実は男性のお客様も多くいらっしゃるので、今後は僕も好きなアウトドア用品などを扱っていけたらと考えているんです。
雅子さん: そうだね。以前から、1階は手に取りやすい雑貨を並べ、2階は家具を置いてじっくり見てもらう空間にしたかったので、それも実現していきたいですね。あと、私の大好きな照明もラインナップを増やして、この場所を理想の形に近づけていきたいと思っています。

(自宅の横にある蔵。ここが「いおりのぼたん」です)

(元の状態を活かしつつ、明るい空間に生まれ変わりました)
―叶えたかった夢が一つずつ形になっていますね。
直人さん:ここを、どなたでもふらっと見に来れる事務所兼モデルルームみたいな場所にできればと思っています。何気なくここを見にきた地域の方が、リフォームの相談をしてくださったことがあって。そんな風に気兼ねなく相談できる場所をつくりたいなと。
雅子さん:私はインテリアコーディネーターの仕事をしつつ、新たに設計事務所でも働く予定です。設計の勉強をして、建築士の資格を取得をしたいなと。将来、ここに相談に来られた方に、インテリアと設計の両方の分野でアドバイスできたらいいなと思います。
直人さん:見に来たからといって仕事を依頼しなければ・・・なんてことはないので安心してくださいね(笑)。まずは築100年の家をリノベーションした様子を見てもらいたいです。そして、こんな風に再生できるんだと伝えられたら嬉しいです。

(この空間の魅力、ぜひ体験してほしいです)

(玄関の土間。細部へのこだわりを感じます)
―お二人がいれば、住まい全般を相談できる心強い場所になりますね。実際の空間を見ながらお話しできるのは、相談者にとってもイメージが湧きやすいはず。その時はスミツケでも、「素敵な先輩移住者とお家があります」とぜひ紹介させてください。
雅子さん:ありがとうございます!それからお庭や和室も多くの人に利用してほしいと思っているんです。ギャラリーやイベントスペースみたいな使い方をしてもらいたいな。お茶会やヨガ教室なんて良いんじゃないかと。長い歴史をつないできた家だから、沢山の方に見てもらうことが家にとっても一番の喜びだと思うんです。
直人さん:今は自分たちの仕事もあるので日常的に場を提供することはできないのですが、お店の営業日や地域のイベントに合わせて活用してもらいたいなと。秋に開催している「南畑美術散歩」で作家さんに展示をしてもらうのもいいですよね。
(お庭の景色をゆっくり楽しめるような使い方も良さそうですね)
―たくさんのお話、ありがとうございました。最後になりますが、お二人のようにリノベーションを検討されている方や、これからこの場所を訪れるかもしれない方へ、メッセージをお願いします。
直人さん:古民家再生は、古いものの良さが分からず壊してしまうこともあります。でも、それでは勿体ないですよね。すべてを新しく作り替えるのではなく、残していけるものを活用していく。そうすることで、地域に馴染んだ場所になるのだと思います。
雅子さん:以前、地域の方が「この家がつながってくれたことが嬉しい」と言ってくださったことがありました。きっとこの家も、多くの方が訪れて活用してくれた方が嬉しいはず。100年続いてきたこの貴重な家。これからは私たちがそのバトンをしっかりとつないで、守っていきたいと思います。そんな家づくりのあり方も含めて、皆さんにこの場所を見に来ていただけたら嬉しいですね。
インタビュー後にじっくりと家の中を案内していただくと、至る所にお二人のこの家への愛情が散りばめられていて、なんだか家もいきいきと喜んでいるよう。
実を言うと、この物件をスミツケでご紹介する際、「この家の雰囲気を活かしたり、蔵をリノベーションして活用してくれたらいいな」「田舎ならではの不便さをも楽しみ、地域を大切に想ってくださる方と出会えたら・・・」と密かに願っていました。今回、そんな想いにぴったりなお二人とめぐり会えたことをとても嬉しく思います。
「移住」と「リノベーション」という形で、大切なバトンを引き継いだお二人。 いま、場所も生活も、自分たちらしい方法で一つひとつ丁寧に作り上げている最中です。もし、あなたが新しい暮らしを考えているのなら、ぜひ一度ここを訪れてみてください。お二人とこの場所が、あなたの背中をそっと押してくれるはず。そんな温かな連鎖がここから始まっていく予感がします。
日用生活雑貨店「いおりのぼたん」
素敵な暮らしの一部をお届けしています。
「いおりのぼたん」
※営業日はInstagramでご確認ください。
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