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INTERVIEW

意識しなくてもそこにある、南畑の風景

インタビューアー / 長尾牧子

[光蓮寺副住職] 簑原 智海さん/玲子さん

400年以上の歴史を持つ埋金地区の光蓮寺。副住職を務める智海さんは埋金生まれの埋金育ち。一方玲子さんは、ふるさとの徳島を遠く離れて南畑へ。二人三脚でお寺を守るおふたりです。

埋金に伽藍を構える光蓮寺は、寛文十三年(1673)に博多の万行寺の末寺として開基した浄土真宗のお寺だ。光蓮寺の次代を担うのは、副住職の簑原智海さんと奥様の玲子さん。雪がちらちらと舞う冬の日。静かに降り積もった境内の雪景色を眺めながら、南畑の昔と今、お寺のことなどを語っていただいた。

南畑育ちの智海さんは、こんな雪の日は慣れっこでしょうね。埋金のお寺で育った子ども時代のことをお聞かせ下さい。

智海さん:お寺の子どもなので、とにかくどこへ行っても地域の方達みんなが知っている、という子どもでしたね。子ども時代はとにかく、自然の中で遊び回っていました。南畑小学校も僕がいた頃はまだ生徒が多くて、年上の子には川遊びや岩登りなど、色んな遊びを教えてもらいました。

大学進学を機に南畑を出られたとのことですが、離れてみて改めて感じられたことはありますか?

智海さん:特にないんですよね。大学時代は京都で過ごしたんですが、取り立てて南畑が懐かしい、と思うこともなかったかなあ。離れていても、長期休みで帰省すると「あら〜帰ってきたねえ」と声をかけてもえらたりして、お寺の次代として僕が帰ってくるのを待っていてくださる方たちがいる、というのが実感として分かっていたからかもしれません。

ご結婚されて南畑へ帰って暮らし始めて、感じた変化はありますか?玲子さんは、新しい環境での生活が始まって新鮮だったことはありますか?

智海さん:今も昔も、南畑の風景は変わっていないと感じますね。山並みも地域の行事も、石碑の位置なんかも。ほら、南畑小学校も昔とほとんど変わっていないです。子どもと遊ぶときも、小学生のときに覚えた遊びがそのままできてしまうんですよ。川遊びとか雪遊びとか。それは親として嬉しいことでもありますね。

玲子さん:初めて一緒に南畑へ来たとき、すれ違う車がほとんど夫の知っている方だったことにびっくりしたのを覚えています。「あれは○○さん」「あれは■■さん」とか、当たり前のように言うんですよ(笑)
智海さん:そうそう、このあたりで雑な運転はできないし、クラクションなんか絶対に鳴らせない(笑)

玲子さん:さっきは「特別懐かしいとかはない」みたいなことを言っていましたけど、私から見ると夫は南畑がすごく好きだと思います。本人は気づいていないかもしれないけれど。ね?
智海さん:うーん、そう?
玲子さん:そうそう(笑)。根っこのところに南畑の存在があって、いまさら好きとか嫌いとか言うようなことではなくて、自然に体の一部になっているような。そのせいか、とても気持ちが安定していて、自己肯定感が高いです。そして同時に、「南畑肯定感」も高い!と感じます(笑)。南畑のことは好きで当たり前、みたいな。

玲子さん:夫は一日のどこかで必ず、庭の風景や窓から見える風景をぼーっと眺める時間があるんですよ。そういうところに南畑との自然な結びつきがあるなあ、と思います。ちなみに、母もそうなんです。かなり長い時間眺めていますね。あっ、これは庭のチェックもあるかもですけど!(笑)
智海さん:30歳を過ぎたころから思い始めたのは、南畑は僕にとって「当たり前」の存在で、意識しなくてもそこにあるもの、ということなんですよね。

根っこのところに南畑が当たり前のようにあるんですね。ところで、南畑の中でも埋金地区は特に地域としての結束が強いように感じるのですが。

智海さん:そうですね。特に地区の運動会には毎年たくさんの方が集まります。昔は那珂川町全体の運動会があって、埋金からリレーの選手を出したりしていたそうです。 30年ほど前、町の運動会はなくなってしまいましたが、埋金の運動会は続いているんです。
玲子さん:連休ということもあって、町外にいらっしゃる息子さんや嫁がれた娘さんも帰ってきて、公民館でのおこもり(地域行事の後の会食)に参加される方もいらっしゃいますね。大学生とか中学生とかも帰省して。地域の伝統ですね。

玲子さん:そういう行事があると、地元の人が色々教えてくださることがあって、私も南畑に来てすぐの頃は本当にありがたかったです。かしわご飯はこう炊く、こういう時にはこうする、ときちんと言ってくれる人が多いのも、このあたりの特徴ですね。

そんな地域の中でお寺の存在はやっぱり大きいですよね。

智海さん:そうですね、昔は地域の方の多くが門徒さんでした。けれど門徒さんに限らず、広く地域の方にお寺への親しみを持ってもらえれば、と思っています。
玲子さん:今は子ども向けに、夏休みのイベントとして「キッズサンガ」という行事を行っています。子どもたちがお寺のお堂に泊まってキャンプをするんですよ。毎年30人くらいの参加者がいるんですが、ほとんどは南畑小学校での口コミでやってくる子たちで、門徒さんではない子もたくさんいます。それでいいと思っていて、小さいうちにお寺を知ってもらう機会になればいいなと。それに、子どもたちにとっては、学校とも家とも違う場所があるのはいいことだと思います。

南畑は、移住者も入っていきやすい空気を感じますよね。これから南畑がどんな地域になっていったらいいと思いますか?

智海さん:先ほど南畑の風景は変わらないと言いましたが、たしかに移住される方は増えていて、そういう意味では地域の様子もだいぶ変わった印象はあります。もちろんこれはいい意味で、南畑へ移住される方は地域での役割も積極的に担ってくださる方が多いと感じています。移住された方が、そんな風に自由にのびのびやれる環境が続いていくといいと思います。
玲子さん:ここ数年、南畑小学校のPTA会長は移住された方たちなんですよ。小学校や地域の行事、おこもりやほんげんぎょう(正月行事)のやり方とか、地元の人が教えてくれるベースがしっかりあるので、そこからまた若い人が新しいものを作っていくことができる。そういう風土がここにはあるような気がします。

ふとした日常にある南畑の良さ。お二人のお話の端々にそんなエッセンスが散りばめられていました。南畑の昔も今も、自然と受け入れながら、簑原さんが守っていかれるお寺は静かに地域に開かれています。簑原さんご夫妻が毎日眺める南畑の風景には、地元の人も移住者も、垣根のない景色が描かれているようでした。

 

 

【光蓮寺】
住所:福岡県筑紫郡那珂川町大字埋金741
電話:092-952-2403

ぼうぶら会議Webサイトでも紹介されています。