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INTERVIEW

ふわふわ食パン、あります。

インタビューアー / 福岡R不動産

[napan] 林田夏実さん

2017年11月、埋金地区にベーカリーショップ「napan」をオープン。ふわふわのやわらかい食感とキュートな顔がトレードマークのパンを求めて、市外からもお客さんがやってくるほどの人気。お店の近所にある埋金の工房で、未経験の陶芸を習い始めるチャレンジ精神旺盛な一面も。

緩やかな段々畑の広がる埋金地区、その曲がりくねった山道を登っていくと、突然白い垂れ幕が目に飛び込んできた。ペンキで大きく「ぱんあります」と手書きされた文字が、空色の小屋の前で北風に揺れている。小屋の扉を開けると、こじんまりとしたカウンターに並ぶ、ふっくらとしたパンたち。その向こうで店主の林田さんが出迎えてくれた。

パン作りを始められたきっかけは何だったんでしょう。

実は、いわゆる「花嫁修業」がきっかけなんです。
10年ほど前、そろそろ仕事をやめて結婚したいなあ、という思いが出てきて、やっぱりそれにはまず料理、と料理教室に通い始めたんですよ。
その教室で試しに、とパン作りのコースを取ってみたらこれがもうびっくりするほど楽しくて。
家庭料理の方はほとんどしないで、パンばかり作ってましたね笑

その頃からパン屋さんになろうと?

最初は通っていた料理教室のパン講師になったんです。でも、やっぱり教えるよりも自分で色々試して作るほうが断然楽しいなって気づいてしまって。
元々、小さい頃から「なにかお店をやりたい」というぼんやりした思いはあったんですよ。
それで、思い切って当時の勤め先をやめて、しばらくパン屋さんでアルバイトしてからお店を始めました。

napanさんと言えば、ふわふわのやわらかーい食感とキュートな顔がトレードマークですよね。

やわらかいパンが作りたかったのは、お子さんからお年寄りまで、みんなが食べられるパンを作りたかったからなんです。
最近はハード系のパンも日本に浸透してきて、それはそれでもちろんおいしいんですが、年配の方からは「かたいねえ」という感想をいただくことも多かったので。
顔は……そうですね、最初はどれがどのパンだか分からなくなっちゃうのを防ぐため、という実用的な意味もあったんですけど、いつの間にかトレードマークになっていました。

南畑でオープンされたということは、南畑育ちなんですか?

実はそうじゃないんです。育ちは福岡市内で、5年前に父(※工房 楔の林田宏之さん)が南畑に移り住んだのをきっかけについてきたんですよ。だから、南畑では新参者ですね。
ここでお店を開こうと思ったのは、街中よりも自然に囲まれた環境で、ゆったりしたペースでやりたいなと思ったのがいちばんの理由です。
それから、父の工房を知ってもらうきっかけになったらなあ、という思いも少し。

オープンからそろそろ1年ですが、この1年はnapanさんとしてはいかがでしたか?

実は、開店してすぐは全然お客さんがいらっしゃらなかったんです。少し奥まっていることもあって、なかなか足を運んでもらえなくて。
でも、それも仕方がないんですよ。この場所は実家ではあるんですが、napanを始める前は福岡市内に勤めていたので、朝早く出て夜遅く帰ってくる生活ですから、地域の方との交流も全然なくて。そんなところでいきなりオープンしても、すぐにお客さんが来てくださるはずがないんですよね。
そこで、「ぱんあります」の垂れ幕をしたり、お店がよく見えるように竹やぶ切ったり、ショップカラーの水色の看板を道路に出したりして工夫するようになりました。それでも春頃まではなかなか売上が立たなくて、家の近所でパンの入った袋を抱えてうろうろしたりもしていましたね笑

開店当初はかなりハードだったんですね……。

そうなんです。でも、那珂川市のいいところは、面倒見のいい先輩たちがたくさんいるところなんです。
例えば、那珂川市内のハンバーガーショップSUNRISEさんには、豚味噌サンドにパンを使っていただいたり、色々なイベントを紹介していただいたり、アドバイスをいただいたり、とってもお世話になってます。
「ここ行ってみなよ」「この人には会いに行かな」ってみなさんどんどん教えてくださるんですよ。
おかげで、いろいろな人のつながりができて、今は市外からもお客さんがいらっしゃるようになりました。ほんとに嬉しいです。

確かに、那珂川市には新しいことを始めよう!という機運が漂っているような気がしますもんね。これからやってみたいことはありますか?

そうですね。イベントへの参加や、かわせみの里(※中ノ島公園内の直売所)、ゆめ畑(※JA筑紫が運営する直売所)などへの出店で、遠くの方がお店に来てくださることが増えているんです。もちろん、とっても嬉しいんですが、せっかくこの地域でやっているのだから地域の食卓を支える「地域のパン屋さん」になりたいなあ、という思いがオープンのときからずっとあるんです。地域の方たちを大事にしてこそのお店だな、と思いますから。
もっと埋金の皆さんにも来ていただけるように、色々考えないといけないですね。
あっ、でも、最近は「毎週食パンを届けてほしい」と言ってくださる方もいて、ちょっとだけ夢に近づけたかのな。
南畑小学校そばのガソリンスタンドの方が、いつもたくさん買ってくださったり。地域の方にはいつも助けられてます。
それと、パンとはまったく関係ないんですが、サックスを始めようかなと思って。

サックスですか!

はい。実は昔、吹奏楽部でサックスを担当していたんです。参加したイベントのステージでサックスを演奏している人を見て、ああ、やっぱりかっこいいなあ、と。
埋金の段々畑を見下ろしながらサックス吹いたら楽しいだろうなあ。毎朝サックスの音がぷわーっと響く場所って、なんだか良いかもしれないなあ、なんて思ったり。どうでしょうね笑
それから、今は埋金の工房パオさんで陶芸を習っていて、それもすごく楽しいのでもっといろんなことにチャレンジしてみたいです。やりたいこと、たくさんありますね。

最後に、これからの南畑がどんな風になっていったら良いなと思われるか、お聞かせいただけますか。

今、お店に来てくださる方には那珂川市内の方も多いんですが、南畑にはほとんど来たことがない、という方も多いです。
もったいないですよね。四季の中で移り変わっていく段々畑の風景や、川のせせらぎしか聞こえない静けさや、そんな南畑の良いところ、もっと知ってほしいです。そうして、色んな人がやってくる場所になってほしいですね。
夏場は中ノ島公園があるので地域全体も賑わうんですが、冬場はそれに比べるとやっぱり少しさみしくて。このお店だけではなくて、季節を問わずに来られる場所がもっと増えたらいいなと思います。そうすれば、南畑のお店全体も活気が出ますしね。

やりたいことが次から次へと溢れてくる、行動派の林田さん。そんな若いエネルギーをきちんと受け止めて育てる気風が、今の那珂川市にはあるのかもしれません。napanに並ぶパンたちとそっくりな林田さんのスマイルを見ているとそんな風に思えてきました。

 

【napan】
住所:福岡県那珂川市埋金285−6
営業日:金・土・日曜日 10:00〜16:00 (なくなり次第終了)
配達日:月・木曜日のみ(2日前までに注文受付)
instagram: napan